我が幻に泳げ聖女

1995年執筆



プロローグ


 深い深い森の中の忘れられた洞窟で彼女は目覚めた。
 雰囲気は以前と全く変わってはいない。あの、血の匂いも…。
「キリ…ランシェロ…」
 少女は咳いてみせる。岩と岩の隙間からかすかな光が、彼女の目覚めを歓待するかのように差し込んでいる。その掌から砂のように光がさらさら落ちた。
「あの子のおかげね…」
 少女は目を閉じ、ある光景を思い浮かべる。
 そこには、犬のような外見で、目が緑色な動物の姿があった。
「あの少女は確か【レキ】と呼んでいたわね…。なんにせよあの子のおかげでこうして今の私がいるのだから…」
 少女は封じられた入り口に手をかざす。
「早く…逢いたい…」
 その言葉が呪文となり、入り日の岩は瞬く間に砕け散った。言葉と裏腹な破壊力から、彼女のその一言にこめられた思いの強さを推し量ることができる。
 少女は洞窟から脚を踏みだす。木々の間からわずかに光が差し込んでいた。何百年ぶりの光だろうか。
 少女が立っているのは鬱蒼とした森の中である。何もない、と言っては不適切だが、植物以外は特に目に付くものはないのだ。
「キリラシシェロのところへ、行くわ…」
 少女は目を閉じ、イメージを膨らませる。少女の周りを淡い光が取り巻いた。
 空間転移、白魔術。
「待っててね、キリランシェロ…いえ、レヴェル…」
 少女は儚い微笑みを浮かべた。
 すると少女の姿は消え、後にはざわつく木々のみが残った。



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