…僕は何をやっているのだろう。
わざわざ好きな人に嫌われるようなことをやっている。
…好きな人を悲しませている。
ぼやけた視界の先で、彼の愛する人は泣き崩れている。
いや、何を迷っているのだろう。ピリカのように戦で悲しい想いをする子供がいなくなるように、この国を帰ると誓ったのではないか。
…でも、彼女の顔を、涙を見ると決意が鈍る。
嫌われたくない…そう思ってしまう。
彼の想いと彼女の嗚咽に反応してか、彼の手の紋章がちくっと痛んだ。
僕は冷酷な人間になると決意したのではなかったか。
そう、彼女を幸せにしたいという幼い頃の願いはとうにあきらめたのではなかっただろうか。
朦朧とする意識を、彼は必死でつなぎとめようとする。
彼女の顔を、もう少し見ていたいから。気がつくと、声に出していた。
「…君は、多分知らないだろう……」
どんなに僕が君を愛しているか。どこまで声になったのか、わからない。
ひょっとしたら、声など出ていなかったのかもしれない。
次第に狭くなる視界の中で、骸にすがり付いている彼女がこちらを向いたように見えた。
そう、彼を縛る涙をたたえたまま。
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気がつくと、そこは豪奢な天蓋つきのベットだった。
思わず手を、自分の目の前に持ってきてみる。…生きてる…
次第に感覚が戻る。
そのとき彼は、ふと自分の反対の手に触れているものがあることに気がついた。
白い肌。細い指。伝わるぬくもり。「ジル…さま…?」
その光景は彼には信じがたいものであった。
夢見心地のまま、その手を握り締めてみる。
その手の主は、彼をじっと見詰めてていた。
そう、瞳に涙をたたえながら。「…貴方まで…いなくなってしまうかと思った…」
気を抜くと聞き落としてしまいそうな小さな声。
開いたかどうかも解らない、真紅の唇。
いつも強気の、人を寄せ付けないオーラを放っている少女の、本当の心。「貴方は知らないから…私がどんなに貴方を…」
感情の高ぶりのせいか、少女の口からは信じられない言葉が紡ぎだされようとしている。
先ほど、彼自身が紡ぎだしたのと、同じ言葉。
お互いが口に出すのをためらい、心にしまっていた言葉。『どんなにあなたを愛しているか』
fine...
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