風に凪がれるプレリュード

『風恋人2』投稿
執筆2002年



 わかって…いた…。
 幼い頃からそれは、心していたはずだった。
 私とあの方は身分違い。
 私はあの方に相応しくない。
 私に許されたのは、あの方をお守りすることだけ。


 あの方が、楽しそうに話をしている。
 あの方が、笑顔で話をしている。

「お、リボン変えたのか? よく似合ってるよ」

 最近…あの方が他の女性にかける何気ない言葉が私の心に引っかかる。

「相変わらず、綺麗な足してるよな(笑)」
「やだっ、そんなこと言わないでよっ」


 あの方は風の申し子。シレジアの王子。フォルセティの継承者。
 あの方は、いつかその身分に相応しき姫と結婚する。
 それがあの方の義務だから。
 私達あの方に仕える者は、あの方が義務を全うするのを妨げてはならない。
 
 分かっている…。
 あの方がいつか迎える王妃。
 それが、私ではないと言うこと。
 分かっていた、はずだった。
 覚悟していた、はずだった。
 でも、でも…
 最近はとても辛い。
 あの方が他の女性と話をしていると言うだけで、胸が痛くなる。
 なぜ…?
 何故こんなに苦しいの?
 見ていられないっ。
 ああっ…その人と話をしないでっ!
 あ…私は…何を…

「フュリー?」
 呆然としていたフュリーの顔を、突然のぞき込んだ者がいた。
 彼女の呼ぶ、「あの人」
「…ないで…」
「えっ…?」
 彼女は、まるで熱に浮かされたかのように涙を溜めたまま、無意識で口を開いた。
「…他の人と…口をきかないで…」
「えっ…? っ、フュリーっ! フュリー!?」
 消え入るような声でそう告げた彼女は、崩れ落ちるようにその場で意識を失った。         

        ++++++++++

 暖かい匂い。
 優しい魔力。
 ふわふわな感触。
「…ここは…」
 瞳を開けると、暖かい空気が映る。
「…ゆめ…?」
 フュリーはぼーっとしたまま、つぶやいてみた。
「お目覚め?」
 突然かけられた柔らかい声の方向へ顔を動かしてみると、豊かな金髪をなびかせて、エーディンがこちらを向いていた。
 エーディンはベットサイドに読みかけの本を置き、フュリーの顔をのぞき込む。
「まだちょっと顔色が悪いかしら…。でも、意識が戻ってよかった。早速、レヴィン様にお知らせしないとね」
「!!!!!」
 エーディンの言葉を聞き、フュリーはにこやかに微笑んだ彼女の手をぐっとつかみ、突然懇願した。
「お願いっ。やめてっ。あの方は呼ばないでっ…。今は…今は…あの方にお会いしたくない…」
「フュリーさん? レヴィン様、とても心配していらしたわよ? あなたを抱えたまま走ってきて、おろおろおろおろしてて。会って、安心させてあげないと…」
 しかし、優しく告げるエーディンの言葉に、フュリーは首を振るばかりだ。
「だめ…だめなのです…」    
 顔を手で覆って首を振るフュリーの背中をやさしくさすりながら、エーディンは優しくたずねる。
「どうしたの…? 何かあったの?」
「…今はまだ…自分の気持ちを抑える自信がないのです…あの方に会ってしまったら、私、臣下としてあの方に仕えることも出来なくなる…」
「好きなのに…伝えられないの…?」
 エーディンの言葉にフュリーは激しく顔を上げて彼女を見つめる。その瞳からは涙が飛び散る。
「だってっ! 告げてしまったら…告げてしまったら…今後あの方のそばにいて、あの方がお妃を迎えるところなんて見ていられない…。告げないから…告げられないから…まだ…まだきっと少しは耐えられるのに…」
 外は雪。ここはセイレーン城。
「…ゆっくり眠りなさい。ゆっくり眠って疲れを癒せば…きっとあなたの結論が出るはず…」
 エーディンの暖かい声とともに、フュリーを暖光が包む。
 ゆったりと、ゆっくりと。
 彼女の空間が隔離され、すべての意識が浮遊する。
 そして、フュリーの意識はやわらかい波に包まれていった。

        ++++++++++

 




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