風花の伝える恋

『それぞれの真実-Each Truth-巻ノ3』収録予定
執筆・2000〜2001年
Present for AKI



 ヘズルの血は――――前代での悲恋の罪滅ぼしをするかのように、この二人を巡り合わせた。
しかしこの二人には、お互いがそれぞれ一人で乗り越えねばならない出生の理由、この世に生まれた意味という壁があった。



(どうしよう、どうしよう、どうしよう!)
 敵に囲まれているのが解る。姿こそは見えないが、これが多分ダーナ城から出たという傭兵部隊なのだろう。
(やっぱり一人で来るんじゃなかった・・・)
 ナンナは大地の剣を握りしめたまま、先ほど交わされた会話を思い出していた。



「大変、大変、大変よ!」
 偵察に出ていたフィーは、ペガサスが完全に地面に降り立つ前に飛び降り、アルスター城攻めの後衛に当たるナンナたちの元へ駆け寄ってくる。
「フィー!? どうしたのよ、そんなに慌てて・・・」
ナンナとマナが駆けつける。フィーは肩で息をしながら答えた。
「セリス様は・・・って後衛にいるわけないわよね―――っ」
「セリス様は、アルスター城の制圧に向かわれましたよ」
 ゆっくりとユリアが近づいてくる。どうやら不自然なフィーの様子に気づいたようだ。
「あーん、大変なのにぃ・・・」
「だから一体、どうしたって言うのよ」
 座り込んでしまったフィーに、マナが詰め寄る。一向に話の趣旨を明らかにしないフィーに、少しいらいらしているようだ。
「ダーナ城から傭兵が出て、こっちに攻めてきているの。でもその中で仲間割れが起こったらしくって、一騎をほかの傭兵達が追っているのよ!」
「つまり、その傭兵をどうしたらいいのか訊きたいのね?」
「それもあるんだけどー・・・・その一騎が問題なのよ・・・」
「?」
 フィーの言葉に、3人とも首を傾げる。何か特別な意味があるのか、フィーは3人の中からナンナの目を選んで見つめながら口を開いた。
「・・・・金髪の若い男で・・・その手に握られていた剣は、多分十二聖戦士の聖武器だとおもう―――」
「!」 
 その言葉に、ナンナは心臓を鷲掴みにされた感を隠せなかった。
「金の髪で・・・剣を扱う―――」
 聖武器の中で剣は三本。バルドのティルフィング、オードのバルムンク、そして―――その事実に気づいた者は、皆ナンナを見つめた。見つめざるをえなかった。
 ナンナは頷いて見せ、皆の疑惑を肯定する。
「それは多分・・・伯父上、エルトシャン王の子アレス。行方不明だった、私のいとこだわ」
 そういいきると、ナンナはやおらつながれていた自分の馬の綱をほどき始めた。
「ちょっと待ってよ!  一体どこに行くつもりなの!!」
「私が確かめてくる!!」
 叫ぶフィーに、ナンナは馬の背に乗りながら叫び返す。
「だめよ、勝手な行動は! セリス様にお聞きしてからではないと・・」
 マナが心配そうに告げる。それに併せてフィーも口を挟んだ。
「一人じゃだめ。傭兵は沢山いるの。危険だわ!!」
 現状を見てきたフィーの言葉には十分すぎるほどの説得力がある。しかし今のナンナの中は、恐怖よりも期待が占めていた。
 自分が死ぬかもしれないという恐怖よりも、自分と同じ血を継ぐ者・・・母親がその心を、命さえも捧げた者に一番近しい存在にあえるという、期待が・・・・・。
「大丈夫」
 心配そうに自分を見つめる者達を眺め、ナンナは大地の剣を抱きしめて毅然として口を開いた。
「私の中のヘズルの血が、きっと守ってくれる。そしてエルトシャン王と母様の形見である、この大地の剣が―――」

 そして馬の腹を蹴り、単騎でダーナ城目指してかけだしたのだった。



 空気がぴんっと張りつめている。
(やっぱりあのとき、フィーの言葉に耳を傾けていれば・・・)
 ナンナは運悪く、目的の人物に出会う前に傭兵達に囲まれてしまっていた。傭兵達は、ナンナを囲んでいる。
 彼女はあきらめて、大地の剣を構えた。
(ヘズルの神よ、母様、私を守って!!)
 それを合図にして、傭兵達は一気にナンナとの距離を縮めにかかった。
 彼女はしばらくは気丈に自分をねらってくる傭兵達を見つめていたが、彼らが目前まで迫ってきたとき、耐えられずに目を閉じて、自分の死を覚悟した。
(母様!!)
 しかし、彼女は悲鳴を発しなかった。
 痛みを感じなかった。
 周囲には、叫び声が充満している。そして馬の蹄と、剣の風圧から出る音。
 彼女は自分の頬に生暖かいものが付着したことに気づいて、おそるおそる瞳を開いた。
(!! ―――獅子―――!?)
 彼女の目の前は、金の髪の海。
 一瞬、時が止まったかと思った。
 金髪の青年はまるで舞うかのように馬と剣を操り、次々と傭兵を倒していく。
(強い、強い、強い!!)
 ナンナは口元を手で覆い、その光景に見入っていた。
 青年はたった一撃で傭兵を倒していく。
(これが・・・―――絶対この人だ。この人が、母様の愛した、すべてを捧げた獅子王の化身―――)



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